てんかん学分野・てんかん科 ようこそ

教育のゴールは,自活していけること(2008.04.14 中里信和)

【原文】

  1. 教育のゴールは自活していける事.学歴ではない.
  2. 仕事をして生活するために大事なのは,他人との協調性や, 時間を守れる事,仕事を続けられる事.
  3. 才能や特技で仕事ができる人間はほんの僅かでしかない.
  4. 病気があろうとなかろうと,基本的な躾は必要.
  5. 「発作さえなければ」と言う思い込みは危険.

--- 宇留野勝久,2007

画像:sakura

【説明】

国立病院機構山形病院てんかんセンターの宇留野先生による「てんかんと付き合う」と題された講演での配布資料から,「親の問題」として取り上げられた5つの文章です.

宇留野先生とは,これまで何度も学会,研究会,症例検討会でお会いしています.鋭い観察力に基づいた的確な発言に,いつも感服していたのですが,患者さんと家族にむけた講演でも,素晴らしいお話をされていたのですね.先日,その資料を頂戴して,私はますます感動した次第.本日,宇留野先生からお許しをもらって,いただいた資料をウエブサイト上からダウンロードできることになりました(クリックしてPDFをもらう).

この講演の中で,宇留野先生は,てんかんと患者さんの関係をいくつかに分類した上で,「てんかんでは,発作以外にも(あるいはそれ以上に)様々な問題がある」と指摘しています.そうして患者さんには,「自分の抱えている問題をはっきりさせよう」と言っているのです.

この分類をそのまま掲載します.もしあなたや,あなたの家族が,てんかんと診断されているなら,どのグループに近いでしょうか?

  1. てんかん発作が抑制されており,服薬は必要だが日常生活に支障が無いグループ
  2. てんかん発作が日常生活に支障を来しているグループ
  3. てんかん以外に重複障害を持つグループ
  4. てんかん発作は抑制されたが,社会生活が送れないグループ

特に注目すべきは,一番最後に分類されている「てんかん発作は抑制されたが,社会生活が送れないグループ」です.宇留野先生は,このグループにおける問題点の具体例として以下の4項目を挙げています.

  • 子供の時に発病し,学校・社会から半ば隔離されてきた.
  • 親が過保護で,基本的な躾や訓練がなされていない.
  • 能力の無さを病気や他人のせいにして,現実の自分を受け容れられない.
  • 理想と現実の狭間で引きこもりになる.

こうした問題を,すべて本人や親の問題とすることはできません.病気によって受けた影響や,病気に対する誤解や偏見から生じた問題もあるからです.けれども,これからの人生を考える上では,宇留野先生の指摘された事項を冷静に見つめてみる必要がありますね.

あらためて表掲の原文を読んでみると,てんかんだけに限った問題ではないと思えます.

時は春.桜も咲いて新しい4月が始まります.「教育のゴールは,自活していけること」 これは私の子供たちにも伝えたい言葉であり,私自身にも言い聞かせなければならない言葉だと思います.

病気のあるなしにかかわらず,自活していけること.朝,きちんと起きて,身支度を整えて,同居者がいれば「おはよう」と言えて,ご飯も食べて(自分で料理もできて,後片づけもできて),一日のやるべきことを段取りできて,掃除も洗濯も自分でやれて,買い物もできて,お風呂にも入って(お風呂の掃除もやって),トイレもできて(トイレの掃除もできて)... こうした基本的な生きる手法を身に付けた上での勉強だったり仕事だったりするわけです.

宇留野先生,ありがとう!

【出典】

宇留野勝久:てんかんと付き合う.社団法人日本てんかん協会第15回東北ブロック大会(記念講演).2007年10月14日,山形市

運転をやめさせるべきか,それが問題(2008.04.13 中里信和)

【原文】

Recommendations must balance a physician's dual obligations―to the patient and also to society. --- L. J. Hirsch and T. A. Pedley, 2007

【意味】

てんかん患者に,運転をやめるよう指導すべきかどうかは,医師にとっては2種類の責任のバランスとして考えなければならない.それは,患者に対する責任と社会に対する責任だ.

【説明】

一昨日,ある地域の医師を対象とする講演の後で,「てんかん患者さんへの運転の説明はどうすれば良いのか」という質問を受けました.

道路交通法という法律をかいつまんで説明しますとと,てんかんを有していても2年以上発作がない場合,あるいは意識を消失しない発作や,夜間に限られる発作の場合には,専用の診断書による審査を経た上で運転が許可される場合がある,とされています.しかし,実際の判断はとっても難しいのです.

まずは医師の側からみた事例を二つ.

ケース1.
側頭葉てんかんと考えられる働き盛りの男性患者さん.薬物治療開始2年で,全身けいれんは消失しています.外来診療の医師に「先生,運転許可の診断書を下さい」と頼みました.ところがこの患者さん,全身けいれんは消失しているのですが,ムカムカして気分が悪くなる発作(単純部分発作)だけでなく,ボーっとして動作が停止する発作(複雑部分発作)も残っている様子.外来担当のY先生は正義感と情熱にあふれるバリバリの脳神経外科専門医であり,「まだ小さい発作がありますから運転はまだ無理です」と患者さんに説明しました.患者さんは電車もなく,バスもほとんど来ないような地域に住んでいます.運転をガマンするにも限界だったようで,「先生はウソつきだ.2年間発作がなければ運転できると言ったじゃないか!」と叫んで,その後,この病院には来なくなってしまった,ということです.

ケース2.
側頭葉てんかんと考えられる働き盛りの男性患者さん.薬物治療開始2年で,全身けいれんは消失しています.ムカムカして気分が悪くなる前兆はあるようですが「気を失うことはありません」と主治医に話しています.会社では営業を担当しており,以前は車を毎日運転して仕事をしていましたが,てんかん発作で交通事故を起こしてからは営業の仕事を外され,別の営業マンを会社の中から支援する仕事に甘んじていました.主治医のK先生は慈愛に満ちた精神科の医師であり,患者さんの現状もよく理解できます.「2年たったから,もう大丈夫そうですね」と外来で説明しました.喜んだ患者さんは,さっそく営業の仕事に戻してもらいましたが,数ヶ月後に動作停止の発作によると考えられる交通事故で,通行人に大けがを負わせてしまったのです.

どちらのケースも,知り合いの医師から聞かされた本当の話です.ケース1の場合,担当医が正直過ぎたために患者さんを怒らせてしまったようですし,ケース2の場合は担当医が優しすぎたために事故が起きてしまったようです.私自身もずっと以前,てんかん診療を開始した最初の頃,似たような状況を経験していますが,最近は場数を多少踏んできたので,患者さんへの説明には工夫を加えています.

私の工夫その1【話を切り出すタイミング】
大きな発作をしょっちゅう起こしている患者さんに対しては,「運転は危険です」と言い出すまでもなく,本人は運転しません.問題は,発作の頻度が少ない場合や,発作が小さい場合です.患者さんは「注意すれば大丈夫」と考えがちです.「運転は危険です」と言い出すと,すぐに怒り出すかもしれませんし,表面的に「わかりました」と答えて,実際には運転を続ける可能性があるからです.生活指導の中に「運転は危険です」の文言を入れておくのは初診時でも構いませんが,運転禁止を真剣に話すタイミングは,患者さんと医師との信頼関係がある程度構築されてからの方が良いと思います.

私の工夫その2【患者さんの家族にも一緒に説明する】
本人だけだと,説明の直後にパニックになる可能性もあります.説明を聞いても無視される場合もあります.しかし家族と一緒だと,本人が理解してくれなくても,家族が状況を理解して,運転をやめるよう説得してくれる場合があります.

私の工夫その3【実例を紹介する】
実際の具体例を話すことによって判断の材料とさせます.上記のケース1,ケース2に加えて私が話すのは,「発作中の大事故で助手席にいた自分の子供を亡くしてしまった母親の例」,「通行人を事故で亡くしてしまい,職場にも戻れず,一生後悔しつづけている銀行員の例」などです.

私の工夫その4【希望を持たせる】
私は自分の外来で,運転を許可してかまわないという書類を,毎週2-3通は書いています.この数字を患者さんに説明して,「2年後には,あなたにも運転許可の書類を書きたいと考えています」と,ハッキリと宣言することは,治療の目標設定という意味でも大切です

なお,夜間に限られる発作,意識を失わない発作の発作は,運転を許可してよいことになっていますが,実際の判断には注意が必要です.夜間に限られている場合でも,睡眠不足の後などに日中の発作が出現することは良くあります.意識を失わない発作だと本人や家族が思っていても,実際には意識を失う発作であることは珍しくありません.発作のビデオモニタリングを行わない限り,発作の詳細を完全に把握することはできないでしょう.ですから私は個人的には法律のこの条項は無視し,すべての発作が2年以上ない場合,を運転許可の原則にしたいと考えています.

法律の問題も守らなければなりませんが,最終的には運転を行う患者さんが自分の能力を総合的に判断して危険かどうか決めなければならないのです.これが運転する側の業務上の責任です.医師は,法律うんぬんだけでなく,自分の患者さんの安全を守ることと患者さんの生活の質を考えなければいけませんし,社会に対する責任も負わなければなりません.

【出典】

Hirsch LJ and Pedley TA: Goals of therapy. In J. Engel Jr. et al. (Ed) Epilepsy. A Comprehensive Textbook. Lippincott Williams & Wilkins, 2007(新しいウィンドウで表示)

てんかん医療システム,不思議な日本(2008.04.07 中里信和)

【原文】

The current status of epilepsy care is somewhat different in Japan from those in Asia and the rest of the world. --- N. Nakasato, 2008

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【意味】

てんかん医療の現況という意味で,アジアやアジア以外の諸外国と比べて,日本は変わっている.

【説明】

台湾てんかん学会で,てんかん治療のアジアにおける現況と未来,と題されたシンポジウムが開催されました.台湾,中国,マレーシア,韓国,シンガポールの代表に混じって,私が日本の現状についての説明を行いました.その時の抄録の冒頭の一行です.

この抄録をある専門家に事前に見てもらったところ,「somewhat different (ちょっとヘン)よりは,quite unusual(完全にヘン)に書き換えた方が良いのでは?」とアドバイスされました.その後に続く文章で紹介した日本のてんかん医療のシステムが,欧米やアジアと比べて,あまりに異質だったからです.日本代表としては,さすがに母国を冒頭から「完全にヘン」とは書けず,「ちょっとヘン」でガマンした,というところ.

講演の際,最初の図に示した日本てんかん学会の構成人員の表をスライドとして見せた瞬間,会場は「ウォーッ」という声に包まれました.小児神経科医の割合が多いのは国際的にみてそれほど不思議ではないそうですが,精神科医の割合が多いのと,神経内科医の数が極端に少ないことが,信じられな~い,のだそうです.日本以外の諸外国では,小児のてんかん患者さんは小児神経科医が診療し,大人になると神経内科医の中の「てんかん専門医」が診療を引き継ぎます.日本の場合は,かつては,大人の患者さんは精神科医が診療していました.てんかんは精神疾患と考えられていた時代のなごりです.神経内科の学会が誕生したのは精神科の学会ができてからずっと後ですが,神経内科の先生方も精神科に任せるといった風潮だったようですし,精神科も自分たちに任せなさい,ということだったらしいです.

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現在,50歳以上の年代の精神科の先生には,てんかんに詳しい専門家が多数いらっしゃいます.しかし,図をよく見て下さい.精神科の占める割合が年を追うごとに少なくなっていますね.これを2番目の図の専門的資格の取得割合でみても,精神科の先生の比率が低いことがわかります.原因は,若手の精神科医で,てんかんに興味をもつ人が少なくなっているためです.若い先生たちは,日本以外では神経内科医がてんかん診療をになっていることを良く知っています.精神科を志す先生たちは,てんかん以外の疾患の勉強に力をいれている可能性が高いのです.

てんかんの患者さんの一部は,うつ病など,いくつかの精神的症状で悩んでいて,どうしても精神科の先生の助けが必要になる場合があります.できれば,てんかんと精神疾患の両方に詳しい先生がいるとよいのですが,現状では若い精神科医で,てんかんも診てくれる先生は減っています.一方,てんかんが疑われる通常の患者さんは,本来ならば神経内科医が診察を担当すべきところです.残念ながら今の日本では,てんかん学会に加盟している神経内科医の数は極端に少ないのです.

以上の経緯があるため,成人のてんかん患者さんの多くは,てんかんにあまり詳しくない一般の精神科医や,てんかんにあまり詳しくない一般の脳神経外科医や,てんかんにあまり詳しくない一般の神経内科医からお薬をもらっている可能性があります.これは大変に困った問題といわざるをえません.てんかんは一生の病気だからです.

【出典】

Nakasato N: Epilepsy care in Japan: Present and future. Annual Meeting of Taiwan Epilepsy Society, March 15, 2008, Taipei(新しいウィンドウで表示)

けいれんで,背骨が潰れることもある(2008.04.05 中里信和)

【原文】

The deficit in bone mineral density in patients with epilepsy is too small to explain the observed increase in fracture risk. The remainder of the increase in fracture risk may be linked to seizures. --- P. Vestergaard, 2005

【意味】

てんかん患者では骨折の危険が高い.原因は,骨密度の低下だけでは説明できず,発作そのものとの関連が考えられる.

【説明】

抗てんかん薬が骨代謝に影響して,骨が弱くなるという研究があります.過去の文献を集めてみると,たしかに,てんかん患者さんでの骨折のリスクは高いことがわかりましたが,その原因を骨密度の低下だけで説明することは到底困難だった,との研究です.やはり,骨折は発作そのもので生じていると考える方が妥当です.

私も,全身けいれんで胸椎の圧迫骨折を生じたケースを2例経験しています.いずれも若いスポーツマンです.全身けいれんの直後に背部痛を訴えており,レントゲン写真をとると背骨の一部がつぶれていました

欧米人では,てんかんや電気ショック治療によるけいれん発作で,脊椎の圧迫骨折が生じることはよく知られており,電気ショック治療が必要な場合には麻酔をかけて筋肉の収縮が強くでないように予防するのが普通です.けいれんによる骨折は筋肉の発達したたくましい人に起きやすいとされていますので,スポーツマンの男性患者さんは,特に注意が必要です.

【出典】

Vestergaard P: Epilepsy, osteoporosis and fracture risk - a meta-analysis. Acta Neurol Scand 112: 277-86, 2005(新しいウィンドウで表示)

プールは大丈夫,風呂や海には要注意(2008.03.30 中里信和)

【原文】

Most fatal accidents in epilepsy occur in the water (60%). However, very few people with epilepsy drown during swimming. Most accidents occur in the bath, while fishing, or from falling into water. --- J. K. Austin, 2007

【意味】

てんかん患者の命にかかわる大事故は,6割が水の中で起きる.風呂の中,釣りの最中,水への転落による事故が多いが,水泳でおぼれることは稀である.

【説明】

先日のてんかん外来で,お母さんから「うちの子供はプールをあきらめなければいけませんか?」と聞かれました.答えは「プールなら大丈夫」.理由は「おぼれても,だれかが助けてくれるから」です.

もちろん,独りぼっちでプールで泳ぐのは危険です.海や川など open water での水泳も, おぼれた時に助けることが難しいため, すすめられません.

ふだんの生活では,お風呂には充分過ぎるほどの注意が必要です.私も数名の患者さんを,お風呂で亡くしてつらい思いをしました.そのほとんどは,一人暮らしの患者さんだったのです.

てんかんと診断されると,親も学校も心配しすぎて,患者さんの活動を制限しがちな場合が多いですが,実際には基本的な注意点を守れば,普通の子供さんと同じようにスポーツや野外活動も行えるはずです.発作の型や頻度に個人差はありますが,なるべく活動を制限しないように配慮することが大切です.

【出典】

J. K. Austin, et al. : Disruptions in social functioning and services facilitating adjustment for the child and the adult. In J. Engel Jr. et al. (Ed) Epilepsy. A Comprehensive Textbook. Lippincott Williams & Wilkins, 2007(新しいウィンドウで表示)

抗てんかん薬の薬疹がウィルスで悪化(2008.03.06 中里信和)

【原文】

The causative drugs for drug-induced hypersensitivity syndrome (DIHS) are limited to ... CBZ, PHT, PHB, ZNS, ... A combination of immunological reaction to a drug and human herpesvirus-6 reactivation results in the severe course of DIHS. --- M. Tohyama, 2007

【意味】

薬剤性過敏症候群の原因薬剤は,カルバマゼピン,フェニトイン,フェノバルビタール,ゾニサミド,等に限られている.薬剤に対する免疫反応が,ヒトヘルペスウイルス6型の再活性化と組み合わさり,薬剤性過敏症候群が重症化する.

【説明】

 昨晩,仙台市内で開催された研究会で愛媛大学皮膚科学教室の教授,橋本公二先生の講演を拝聴し,私は目からウロコが落ちる気持ちを味わいました.

以前,私自身の経験した患者さんや,私の同僚・知人の医師が経験した患者さんの中に,複数の抗てんかん薬に対して次々に薬疹が出て,「使える薬がないよ~」と叫びたい気分になることがありました.こうした薬は, カルバマゼピン,フェニトイン,フェノバルビタール,ゾニサミドの4剤に限られており,他の薬剤では薬疹の連鎖は起きないことは,経験的には気づいていましたが,原因は不明でした.不思議なことに,この4剤の抗てんかん薬による薬疹は,使用直後に出る場合もありますが,数週間たってからゆっくり出てくる場合もあるのです.リンパ節が腫れたり,血液中の好酸球が増えたりするのも,不思議だなと感じていたのですが,橋本公二先生の講演を聴いて,疑問が氷解したのです.

薬の副作用で出た発疹(ほっしん)が,体内で活性化したウイルスの活動によって悪化する病態があり,これを薬剤性過敏症症候群(DIHS)として橋本先生たちが報告しています.脳炎や肝障害など,全身に症状が出ることもあり,薬疹としては重症化するので要注意とのこと.

薬剤性過敏症症候群(DIHS)は臨床的にいくつかの特徴があるそうです.まず(1)比較的限られた薬剤が原因,すなわち,抗てんかん薬であるフェノバルビタール,フェニトイン,カルバマゼピン,ゾニサミド,それに抗てんかん薬とは別の4剤を加えた計8剤にほぼ限定されていること,(2)原因薬剤の投与開始後すぐではなく,2週から6週後に発症すること,(3)発熱,末梢血の白血球増多,異型リンパ球の出現,好酸球増多,肝機能障害,全身のリンパ節腫脹などの全身症状を伴うこと,などです.

症状が悪化する危険性があり,皮膚科の専門医のいる病院に入院して,ステロイドなどによる治療が必要とされています.幸いなことに,私はこれまで外来治療のみで悪化させずに済みましたが,今度からは入院を考えたほうがよさそうです.私の経験では,上記4剤のどれかで薬疹が出た場合,すぐに内服をやめさせるのは当然ですが,続く2ヵ月間はいっさいの抗てんかん薬を出さないのがベスト.あるいは上記4剤以外の抗てんかん薬を臨時に出して待機.症状がすっかりおちついていれば,上記4剤(もちろん初回の選択で薬疹が出た薬剤は除く)が使える場合もあります.1種類の薬剤で薬疹が出たからといって,あわてて次々と別の抗てんかん薬をだしていくと,そのうち使える薬が無くなってしまう危険性があるということです.

【出典】

1) Tohyama M, et al. Association of human herpesvirus 6 reactivation with the flaring and severity of drug-induced hypersensitivity syndrome. British J Dermatol 157: 934-40, 2007(新しいウィンドウで表示)

2) 最新医療情報(Medical News 共同通信社)(新しいウィンドウで表示)

肩やアゴがはずれる,これもてんかん(2008.03.02 中里信和)

【原文】

An astute orthopaediatric surgeon referred a young patinet to me with recurrent dislocation of the shoulder during sleep. He was not known to have epileptic seizures but EEG confirmed the diagnosis of IGE. --- C. P. Panayiotopoulos, 2007

【意味】

ある洞察力をもった整形外科医が,若い患者を私に紹介してきた.睡眠中に,ひんぱんに肩を脱臼しているとのこと.脳波で原発全般てんかんであることが確認されたが,これまで,この患者が,てんかん発作を持っていることを誰も知らなかった.

【説明】

小さい子供さんであれば,睡眠中の発作は両親が気づいてくれます.大人でも,寝室をともにする人がいる場合には,夜間の発作が見逃される場合はまれです.しかし,独身者の場合,夜間に全身けいれんがおきたとしても,朝になるまで気づかずに寝ている場合が多いのです.起きてから,全身の筋肉痛や尿失禁に気づいて,夜間に何かがおきたのだろうと悩むわけです.

肩関節の脱臼で気づいた例を著者は述べていますが,私自身が受け持った患者さんには,アゴの間接をくりかえし外す患者さんもいました.てんかん発作の中には,夜間にだけおきやすいタイプのものもありますから,ひとりで寝ている患者さんの場合には注意が必要ですね.

【出典】

C.P. Panayiotopoulos: A Clinical Guide to Epileptic Syndromes and their Treatment (2nd Edition), Springer, 2007(新しいウィンドウで表示)

舌を守ろうと,口に物を挟むのはダメ(2008.03.02 中里信和)

【原文】

Placing an object in the patient’s mouth to prevent tongue biting is erroneous and causes more harm than good. --- C. P. Panayiotopoulos, 2007

【意味】

舌をかむのを防ごうとして,発作中の患者さんの口に何か物を挟むのは間違い.効果がないばかりか,危険である.

【説明】

知ってて知らない事実の代表みたいなことなので,あえて取り上げます.医者でも,いまだに勘違いしている人もいます.  全身けいれん(ひきつけ)の発作の最中には,口(くち)は固く閉ざされていますので,口を指でこじあけようとしても,指をかまれて切り取られてしまう(!?)か,さもなくば歯をへし折ってしまうでしょう.

舌を咬んで傷つけただけでは,生命にどうということはありません.患者さんの歯や唇を傷つけたり,介護者の方がケガをしたりする危険が高く,また口の中に異物をいれて,かえって気道を閉鎖して窒息させる恐れもあります.

全身けいれん(ひきつけ)にそうぐうしたら,まず落ち着いて,周囲に危険なものがないかを確認しましょう.体が硬直して呼吸も止まっているのは,せいぜい30秒から1-2分です.硬直が終われば呼吸を再開するはずです.

患者さんを,仰向けではなく,横に向かせて寝せることも,窒息予防には大切です.発作の直後は,唾液の分泌が多いこともあり,誤嚥性肺炎を起こす危険が高いからです.

発作をみたら,ケガにきをつけることと,横向きに寝せること,大切ですよ!

【出典】

C.P. Panayiotopoulos: A Clinical Guide to Epileptic Syndromes and their Treatment (2nd Edition), Springer, 2007(新しいウィンドウで表示)

てんかんでも,子供を産める率は同じ(2008.03.02 中里信和)

【原文】

If adequately informed, women with active epilepsy without severe comorbidity do not make the choice of not having children more often than women in the general population. --- K. Viinikainen, 2007

【意味】

女性がてんかんでも,重い合併症がなくて適切な助言がえられれば,一般女性と同じ数だけ子供を生むことができる.

【説明】

これまでは,てんかんをもつ女性の子供の数は少ないのではないか,という研究もありましたが,アイスランドの研究では一般女性の場合と比べて差がない,とも言われていました.はたしてどちらが本当なのでしょうか.

この研究では,フィンランドのクオピオ大学病院がカバーしている地域において,てんかんをもつ女性と一般女性との比較をおこなっています.

てんかんの患者さんの一部では,知能の発達障害や,その他の合併症をもつ方もいて,子供をうめるかどうかに大きく影響する場合もありますから,この研究ではそうした重い合併症をもつ女性は除外して検討しています.

その結果,てんかんをもち,薬を飲んでいる女性でも,一般女性とかわらない人数の子供を産めていた,と結論づけています.

また,全般性てんかんの治療薬の代表であるバルプロ酸を服用している場合でも,局在関連てんかんの治療薬の代表であるカルバマゼピンを服用している場合でも,この数字に差はなかったというデータも含んでいます.

朗報です!

【出典】

Viinikainen K, et al: Fertility in women with active epilepsy. Neurology 69: 2107-8, 2007(新しいウィンドウで表示)

睡眠時無呼吸症は,発作の悪化と関連(2008.03.01 中里信和)

【原文】

Obstructive sleep apnea is associated with seizure exacerbation in older adults with epilepsy, and its treatment may represent an important avenue for improving seizure control in this population. --- A. M. Chihorek, 2008

【意味】

高齢者のてんかん症例においては,閉塞性の睡眠時無呼吸症が発作の悪化に関係する.睡眠時無呼吸症の治療は,高齢者のてんかん発作を改善させる有効な手段となるかもしれない.

【説明】

てんかんは子供の病気と考えている人も多いかもしれませんが,てんかん発作をはじめて経験する年代は,実は高齢者の方なのです.

てんかんが高齢者におこりやすい原因には,脳卒中や脳腫瘍などの高齢者に多い病気が有名です.くわえて,高齢者になるほど増えてくる疾患としては睡眠時無呼吸症もあり,これがてんかんの原因や,てんかんを悪化させる因子になっている可能性があるようです.

睡眠時無呼吸症では,睡眠が浅くなってしまうため,日中に眠気を感じる度合いが増えます.睡眠不足は,てんかんを悪化させることはよく知られていますから,睡眠時無呼吸症で,発作が増えることは当然なのでしょう.

睡眠時無呼吸症の患者さんが肥満者の場合,まず最初にやるべきことは減量です.上気道の周囲に脂肪があると,気道の閉塞がおきやすいからです.

また,睡眠時無呼吸症の治療法のひとつに,CPAP療法というのがあります.寝るときに専用のマスクをつけて,息を吸うときも吐くときも,常に気道(鼻から肺までの空気の通路全体)が陽圧になるように保ちます.こうすると気道が閉鎖するのを防ぐことができるので,深い眠りに入っても呼吸がとまらずに継続できるというわけです.

睡眠時無呼吸症によって高血圧,狭心症,心筋梗塞といった循環器系の病気がおこりやすいことが知られていますが,CPAP療法はその予防に有効であることが知られています.またCPAP療法によって,睡眠時無呼吸症の患者さんの翌日の眠気が改善することも知られています.高齢者のてんかん患者さんで,もし睡眠時無呼吸症を合併している場合には,てんかんの治療(薬)と,減量やCPAP療法を併用する必要がありそうですね.

【出典】

Chihorek AM, et al. Obstructive sleep apnea is associated with seizure occurrence in older adults with epilepsy. Neurology 69: 1823-1827, 2008(新しいウィンドウで表示)