てんかん学分野・てんかん科 ようこそ

前兆は発作そのもの.前駆症状とは別(2008.02.24 中里信和)

【原文】

Prodrome should not be confused with aura. ... aura is a seizure itself. Prodrome is not a seizure. --- C. P. Panayiotopoulos, 2007

【意味】

前駆症状(prodrome)を,前兆 (aura)と混同しないように. 前兆 (aura)は発作そのものであり, 前駆症状(prodrome)は発作ではない.

【説明】

てんかんの診断で重要なのは,発作のタイプを知ることであるが,大きな発作は診断価値が低く,むしろ小さい発作の方が情報が多いことは以前にも述べました. 前兆 (aura)は,一番小さな発作であって,発作の前触れではありません.真の意味での発作の前触れが前駆症状(prodrome)と呼ばれるものです.もちろん,どちらも来ないで,突然に別の大きな発作になる場合も少なくありません.

まず,分かりやすい前兆 (aura)から. 前兆と書くと,発作ではないような誤解を招きますので,ここではカタカナ英語の読み方で「アウラ」と呼びましょう. アウラは,周囲の人には気づかれない本人だけが感じる主観的な発作現象です.ですから発作のタイプとしては,感覚発作(sensory seizure)に分類されます.

つぎに,分かりにくい前駆症状(prodrome)です.あくまでも発作より前に出現する発作とは違う現象を指します.患者さんだけが感じる主観的なものもあれば,周囲の人が異変に気づく客観的な前駆症状もありえます.時には発作の数時間前から出現することもあります.具体的な前駆症状としては,頭痛,気分や行動の変化,睡眠障害,頭がわずかに重い感覚,不安感,集中力の低下,などです.

前駆症状はおそらく全身的な障害で,代謝の異常が背景にあるのかもしれません.血糖の低下や,生理前のホルモン変化なども考えられます.こうした前駆症状が発作を引き起こしやすい状態を作り出すのであろうと推測されています.ただしこれをキチンと証明できた研究はありません.

著者が自分での経験を述べていますが,前駆症状と言われて診察してみると,欠神発作の重積状態など,前駆症状ではなく発作そのものだったことが多いとのこと.時には,全身痙攣の原因となる代謝異常・電解質異常もあるとのことです.

診断する側の医師の立場からみると,むやみに前駆症状とは決めつけずに,発作かもしれない(つまりアウラかもしれない),という観点で患者さんから話を聞くほうがよさそうですね.

【出典】

C.P. Panayiotopoulos: A Clinical Guide to Epileptic Syndromes and their Treatment (2nd Edition), Springer, 2007(新しいウィンドウで表示)

寝ている時の発作が,脳波診断に有用(2008.02.24 中里信和)

【原文】

For temporal lobectomy candidates undergoing video-EEG monitoring, the recording of seizures during sleep may be favored. --- R. D. Buechler, 2008

【意味】

側頭葉切除を想定している患者さんのビデオ脳波モニタリングでは,覚醒中の発作よりも,睡眠中の発作の方がありがたい.

【説明】

てんかん脳波の検査では,睡眠中の記録が大切であることは有名です.起きているときよりも眠っている時の方が,スパイク波,あるいは棘波(きょくは)と呼ばれる異常な波が出やすいためです.ただしこれは,発作が起きていない時の比較の話.発作そのものの脳波を判読するときに,睡眠中と覚醒中におきた発作では,どちらが有用なのかはこれまでハッキリとしていませんでした.

 著者らは28人の側頭葉てんかんと考えられる患者さんで,合計76回の発作を記録し,発作が起きた時に患者さんが覚醒していたのか睡眠中だったのかで,発作時脳波の診断価値について比較しました.

 その結果,眠っている時の発作の方が起きている時の発作に比べて,発作の局在所見を2.5倍の確率で得られることと,真壇上の精度も4倍高いことを見いだしました.さらに,ビデオで見て発作が開始したと考えられる時刻よりも,脳波で発作を確認する時刻の方が通常は早いことが知られていますが,その時間差は,睡眠中の発作では平均 4.69 秒,覚醒中の発作では平均 1.23 秒であり,統計学的に優位に睡眠中の発作時脳波に軍配が上がっていました.脳波に混入する雑音も,睡眠中の方が少ない傾向も認められました.これはたぶん,覚醒時の動きによる筋電図などの影響が少ないためと推測されます.

 あらためて睡眠脳波の大切さが確認されたわけですね.

 とはいっても限られた検査日数の間に発作をたくさん捕まえることは至難のワザですから,検査する立場から言えば,起きている時であろうが,睡眠中であろうが,その患者さんのなるべく普段どおりの発作が起こって欲しいと願うばかりです.

【出典】

Buechler RD, et al. Ictal scalp EEG recording during sleep and wakefulness: diagnostic implications for seizure localization and lateralization. Epilepsia 49: 340-342, 2008(新しいウィンドウで表示)

病歴聴取には,時間をかける価値あり(2008.02.17 中里信和)

【原文】

Lengthy medical interviews may seem to be ‘luxury’ medicine, but this is by far outweighed by the benefits to patients, their families and their physicians. --- C. P. Panayiotopoulos, 2007

【意味】

患者や家族からじっくり話を聞き取ることは「ぜいたく医療」と言われるかもしれない.しかし,患者にとってこれ以上の利益になることはなく,家族にとっても,そして医師にとっても時間をかけるだけの価値はある.

【説明】

3時間待って3分診療とは,よく言われる日本の病院の実情ですが,知人の医師に聞くところによると,諸外国でも似たりよったりとのこと.ひとりの患者さんに30分も1時間もかけて診察していたのでは,病院の経営が成り立たないでしょう.時間をかけた分だけ病院に診療報酬が入るのなら許してもらえますが,日本でも海外でも,それだけの時間をゆるす医療保険事情ではないのです.つまり国力がないのです.  例外はアメリカ.1989年に私が留学した時にまず最初に驚いたのが,ボスの神経内科医(てんかん専門医)の外来時間の長さです.大学の専門外来だから特別なのかもしれませんが,彼は午前中の3時間の外来から帰ってきて「大変に疲れた」と話していたのですが,「何人を診察したのですか?」とたずねると,「新患が2人」とのこと.なんとぜいたくな国でしょう!

はずかしながら私も,ふだんはいわゆる3分診療.ひょっとすると30秒.外来には患者さんが大量に待っていますし,外来診療以外にも仕事はたくさんあります.それでも私はひとつだけずっと以前から,自分では固く守ってきたことがあります.てんかんの新患の患者さんとその家族からは,たっぷり時間をかけて話を聞くことです.Panayiotopoulos先生のこの言葉を見つけたときには,我が意を得たり,という気分でした.

彼の言葉は続きます.

  • 「私は個人的には全身痙攣そのものの話を聞くことよりも,それに先行して何かなかったかを聞くことに時間をかけます」
  • 「発作を目撃した人から話を聞くときは,目撃者がどう感じてどう行動したかの説明(これも大事ですが)よりは,目撃者が目にしたこと自体を話してくれるよう誘導します」
  • 「患者さんや目撃者にとって,発作のもっともドラマチックな部分だけを聞くのではなく,発作の細かな部分を聞き取ることがポイントです」

こうした言葉は他のすべての疾患でもあてはまることではありますが,てんかんに関しては特に特に特に重要です.

てんかんを診療するお医者さんへ.初診の患者さんからは,とくに時間をかけて話を聞いて下さい.もし時間がないのなら,別のてんかん専門医に患者さんを紹介してください.

てんかんを心配してはじめて病院を受診する患者さんへ.担当する医師が十分に時間をかけて話を聞いてくれるのなら安心です.もし時間をかけた診察が受けられないのなら,別の専門医を紹介してくれるよう頼んでみましょう.

【出典】

C.P. Panayiotopoulos: A Clinical Guide to Epileptic Syndromes and their Treatment (2nd Edition), Springer, 2007(新しいウィンドウで表示)

てんかん医療の教育方式は,時代遅れ(2008.02.14 中里信和)

【原文】

Traditional medical teaching and attitudes to the diagnosis and management of epilepsies often differ from those applied in other medical conditions. This should be corrected. --- C. P. Panayiotopoulos, 2007

【意味】

医学教育と診療へのとりくみ方に関しては,てんかんは他の疾患に比べて時代遅れの状態にある.これは正されなければならない問題だ.

画像:panayiotopoulos

【説明】

Panayiotopoulos先生の,まったくもってすばらしい教科書! その第1章の第1ページにある「大切なおぼえ書き」の中から,冒頭にある文章をとりあげてみました.

原文は訳しにくい英文なのですが,このあとに続いている文章の意味をとりこんで,私が勝手に意訳してみました.以下に続く文章は,こうなっています.

  • 「病歴だけで重症筋無力症とわかっても,筋肉の疲労を実際に診察するのが当然というものです.てんかんの診断でも,発作をこの目でみるのが当然というものです.携帯電話のカメラの動画で発作を記録して見せてください,と頼んでみるのを忘れないように」
  • 「脊髄性筋萎縮と多発性筋炎とは,注意して鑑別すべきであるこは多くの神経科医が強調しています.しかし,欠神発作(原発全般性てんかん)と,複雑部分発作(局在関連てんかん)の鑑別がきわめて重要であることは,強調する人が少ないのです」
  • 「小児医学の専門誌では,たびたびとりあげられるきわめて稀な疾患が数多くあります.しかし,世界中で何千人もの患者が誤診されている小児の自律神経性発作重積は,今まで取り上げられてはいませんでした.」

まったくそのとおり,ですね.

私は Panayiotopoulos 先生ほど高尚な言い回しで医学教育システムを批判することはできませんが,普段から,てんかん医療に対する無知と非常識を憂(うれ)いている一人です.

てんかんは少なく見積もっても,全人口の 0.5%,つまり二百人に一人がかかる病気なのに,たとえば医学部の6年間の時間割の中で,てんかんに関する授業時間は,せいぜい2時間程度ではないかと思われます.

それなのに,医師免許をもつ臨床家のほとんどは,てんかんはべつにめずらしい病気ではないし,発作があってもすぐには命にかかわらないと,気安く考えているのが現実のようです.つまり,てんかんの専門家でなくとも,てんかんの薬を簡単に処方してしまうのです.病歴をきちんととることもなく,発作の分類をすることもなく,脳波をきちんと読むこともなく,です.実際,1月のブログにも書きましたが,医師がもし自分がてんかんになった場合,多くは自分で薬を調整して失敗しているのです.

一方で,患者さんやその家族からしてみると,脳神経外科,神経内科,精神科など,科名に「神経」の文字があれば,文字通り「神」のように医師を尊敬して,自分や家族のてんかんをきちんとみてくれるだろうと思うわけです.

はっきり書きますが,脳神経外科,神経内科,精神科など,神経の病気をみてくれそうな標榜科の専門医であっても,てんかんの分類まで考え正しい薬を選んでくれる医師とは限りません.

あなおそろし.

【出典】

C.P. Panayiotopoulos: A Clinical Guide to Epileptic Syndromes and their Treatment (2nd Edition), Springer, 2007(新しいウィンドウで表示)

フェニトインでは,さじ加減が決め手(2008.02.11 中里信和)

【原文】

Therapeutic range (of phenytoin) is narrow and close to the toxic range requiring frequent monitoring of plasma levels. --- C. P. Panayiotopoulos, 2007

【意味】

フェニトインは,治療に適した血中濃度の範囲が狭く,ちょっと増えただけで副作用が出現しやすい.投与に際しては,頻繁に血中濃度をチェックする必要がある.

画像:phenytoin

【説明】

フェニトイン(代表的な商品名は,アレビアチン,ヒダントール,フェニトイン散など)は1938年から使われている古い薬.医師なら誰でも知っているほど有名な薬ではありますが,投与量の調整がとても難しいことは,意外に知られていません.多くの患者さんが恩恵をうけているにもかかわらず,投与量の調整がうまくいかずに嫌われやすい薬とも言えます.さじ加減をきちんとできれば,てんかん専門医としては合格でしょう.

まず大切なのは,フェニトインの適用.局在関連てんかんの薬ですから,部分発作もしくは二次性の全身強直間代発作には有効ですが,全般性てんかんには役にたたないばかりでなく,時には禁忌といわれています.ですから,全身痙攣の既往だけで小さな発作がない場合,よほどきちんとした局在関連てんかんの証拠がない限り,投与しない方が良いでしょう.

成人での投与量は,最終的な安定期において 200-400 mg と言われていますが,投与初期には 50-100 mgと教科書によっては書かれています.しかし血中濃度をきちんと計測しながらの開始であれば,200 mg からでも構いません.吸収や代謝がゆっくりなので,1日1回の内服でも大丈夫ですが,飲み忘れのリスクを回避するために,私は1日2回で出すことも多いです.

飲み始めの初期には,皮膚症状に注意しましょう.もし発赤疹がたくさん出て,かゆみや発熱を伴うようなら,ただちに中止です.中止すれば,しだいに症状は消えていきますが,無理して飲み続けると,生命にかかわることもあります(Stevens-Johnson症候群など).

フェニトインの血中濃度が治療域を超えて上昇すると,ふらふら感,眠気,だるさ,などが出現します.薬の中止までは必要ありませんが,投与量を減らさなければなりません.

フェニトインは,肝臓で代謝され,たんぱく結合率が高いので,他の多くの薬剤との相互作用があります.ですから,いつもと同じ量を服用していても,別の薬が増えたり減ったりするだけで,フェニトインの効果が下って発作が起きたり,逆に血中濃度が上がって上記の,ふらふら感,眠気,だるさ,などが出てきます.

フェニトインの調整が難しい理由はもうひとつあります.投与量が少ないうちは血中濃度の上昇はわずかですが,一定量を過ぎると血中濃度が急上昇するのがフェニトインの特徴です.ですから,投与開始は一日 200 mg からでかまいませんが,それ以降は 225 mg, 250 mg, 275 mg, 300 mg と,25 mg 刻みで少しずつ増やす方が無難です.また,投与量を増やしたり減らしたりしても,血中濃度が一定になるには 2-3 週間みておく方がよいので,なおさら投与量の調整はゆっくりやる必要があります.

とにかくフェニトインを使うときには,血中濃度を頻繁にチェックすることが大切です.

【出典】

C.P. Panayiotopoulos: A Clinical Guide to Epileptic Syndromes and their Treatment (2nd Edition), Springer, 2007(新しいウィンドウで表示)

発作後の呼吸状態で,ニセ発作を鑑別(2008.02.10 中里信和)

【原文】

The postictal breathing pattern can help differentiate generalized tonic-clonic seizures from nonepileptic psychogenic seizures with generalized motor activity and may be helpful to the practitioner obtaining a seizure history in the clinic setting or witnessing a seizure. --- N. J. Azar, et al. 2008

【意味】

発作直後の呼吸状態をみると,全般強直間代発作(いわゆる全身痙攣)と,全身の運動をともなった非てんかん性心因性発作(いわゆる偽発作)を区別できる可能性がある.外来診療時や,発作の目撃者から話を聞くときに役立つ知識.

【説明】

脳波の記録中であれば,てんかん発作とニセ発作の区別は比較的簡単ですが,脳波を記録してない場合,判断に迷うことも少なくありません.発作の目撃者から,あとで話を聞こうとしても,発作の真っ最中には気も動転しているので,詳しい状況を観察することは困難ですから,あまり当てにはなりません.しかし,発作のあとの様子であれば,比較的詳しく覚えていて,教えてもらうことも可能です.

著者らの観察によれば, 全般強直間代発作(いわゆる全身痙攣)のあとの呼吸状態は,吸気時間・呼気時間がともに長く深いのが特徴的.呼吸状態の変化は偽発作よりも長く続き,呼吸の音やイビキも大きいのが特徴です.

一方,偽発作の場合には,呼吸回数が増えて吸気時間・呼気時間が短縮し,いわゆる過呼吸状態です.ちょうど運動を終えたあとの状態に似ていますね.また偽発作のあとの呼吸では,しばしばリズムが不規則で,短い休止期間があったりします.

注意しなければいけないのは,前頭葉てんかんで出現する過運動発作(hypermotor seizure)です.この時の発作後の呼吸状態は,偽発作と良く似ているからです.とはいえ,別の特徴から両者を区別できるかもしれない,と著者らは述べています.たとえば,偽発作では頭を左右に振ることが多く,前頭葉てんかんの過運動発作では体幹を左右に振ることが多い,などです.

著者らは,発作の様子を聞き出すときの問診表の具体例を提案しています.

----------------------

かっこの中は(全身痙攣/偽発作)での特徴を示します.

<発作の最中の様子>

  • 目は開いていますか?     (開く/閉じる)
  • 運動は持続的ですか?     (持続的/休止あり)
  • 頭や体を左右に振りますか?  (振らない/振る)
  • 上肢と下肢の動きのリズムは? (一致/不一致)
  • 発作は2分以上続きますか?  (続かない/続く)

<発作のあとの呼吸状態>

  • 深いですか?         (深い/浅い)
  • うるさく,イビキがある?   (うるさい/静か)
  • 規則的ですか?        (規則的/不規則)
  • 異常な呼吸の持続時間は?   (5分/1分程度で短い)

<その他の状態>

  • 発作の後,もうろうとしていますか?(はい/いいえ)

-----------

ただし以上の特徴は決定的ではありませんから,とりあえずの外来診療での目安としましょう.発作の確実な診断には,ビデオと脳波による発作の記録が重要です.

【出典】

Azar NJ: Postictal breathing pattern distinguishes epileptic from nonepileptic convulsive seizures. Epilepsia 49: 132-137, 2007(新しいウィンドウで表示)

初めての痙攣で,よくある6つの質問(2008.02.10 中里信和)

【原文】

Following a child’s first seizure parents usually have six major questions -Will it happen again? How long do I have to wait to for a recurrence? Could my child die during recurrence? Could there be brain damage with a recurrence? If I choose to delay medication treatment will there be any long-term change in the chance of a permanent remission? Now that my child has had a seizure, how should his/her activities be restricted? --- P. Camfield & C. Camfield, 2008.

【意味】

子供が痙攣発作を初めて経験した時に,親がよくする6つの質問.

  1. また発作はおきますか?
  2. 次におきるとすればいつですか?
  3. 次の発作で死んだりしませんか?
  4. また起きたら脳に影響はでませんか?
  5. 薬の開始が遅れると,あとで治りにくくなりませんか?
  6. 子供の生活上,何か制限はありませんか?

【説明】

この論文では,子供が痙攣発作を初めて経験した時に,親からよくでる6つの質問を取り上げています.医学の進歩で答えられる部分もあれば,答えられない部分もありますが,現時点で考えられる回答も掲載してあります.

(1)また発作はおきますか?

発作がまた来る確率は子供でも大人でも似たような確率といわれています.

発作が再発しやすい3つの危険因子としては,部分発作(全般性発作に比べて),脳波でスパイク波が出ている場合,発作に附随して神経学的な異常がある場合,です.この3つに当てはまらない場合の再発率は20%,すべて当てはまる場合のは80%という著者らの以前の研究結果もあります.

つまり,また発作は起きますか,という質問への答えは,YesともNoとも言えません.もし再発した場合の心構えは必要です.

(2)次におきるとすればいつですか?

この質問の答えも,前問と同様,子供でも大人でも似たような期間といわれています.

著者らの以前の研究によると,168人の小児例において,70%の再発は最初の発作から6ヶ月以内におきています.他の研究者のデータでは,6ヶ月以内が53%で,2年以内が88%となっています.

ですから一般的な回答としては,ほとんどの発作は2年以内,多くは6ヶ月以内におきる,といえましょう.

(3)次の発作で死んだりしませんか?

結論として,子供の場合,明らかなてんかん発作で死亡する確率は,非常にちいさい(=miniscule)です.

大人の場合には,運転中の交通事故死,高所作業中の転落事故死,入浴中の溺死,といった報告は多いですが,発作そのものが原因で死亡する例は,ごくごく稀な心疾患の合併や窒息といったエピソードに限られています.

(4)また起きたら脳に影響はでませんか?

結論として,数回の再発程度では,脳への影響は出ません.

(5)薬の開始が遅れると,あとで治りにくくなりませんか?

結論として,このようなことはありません.抗てんかん薬の開始は,明らかに必要だと判断されるまでは慎重であるべきです.

(6)子供の生活上,何か制限はありませんか?

結論としてありません.発作での事故やケガの報告はありますが,スポーツや特別な活動中におきることよりも,普段の生活の中でおきることがはるかに多いのです.患者さんに,必要以上に生活制限するのは,子供の教育上も好ましくありません.著者らは,子供さんが初めて痙攣発作を起こしたとしても,学校側に情報を伝えることは通常すすめない,としています.

もっとも,成人の場合には,車の運転の制限や,入浴・危険作業に関しての指導は必要です.

【出典】

Camfield P, Camfield C: Special considerations for a first seizure in childhood and adolescence. Epilepsia 49 s1: 40-44, 2007(新しいウィンドウで表示)

初めての痙攣発作に,さあどうする?(2008.02.09 中里信和)

【原文】

The management of a first seizure - still a major debate. --- E. Beghi, 2008.

【意味】

「初めての痙攣発作に対して医学的にどう対応するかは,いまだに議論の多いところ」という,てんかん専門雑誌特集号の表題.

【説明】

人生で初めての痙攣発作や,痙攣を疑わせるような意識を失うエピソードのあった患者さんに対して,どのように対処していくべきか.日々の診療でしばしばでくわす状況ですが,その答えに関しては,いまだに専門学会でも大きな議論の対象になっています.ここに掲載した国際てんかん連盟の機関誌の最新号でも,初回の痙攣発作が主題となっています.議論が多いとはいえ,詳しく読んでみますと,かなりの事項でコンセンサスが得られつつあり,今までの常識を大きくひっくり返すような事項はありませんでした.

痙攣発作や,痙攣を疑わせるエピソードのあった患者さんを診察したときに,まずやるべきことは? 答えは,てんかん「以外」の病気がないかを判断すること! てんかんならあわてる必要はありませんが,それ以外の病気なら,急ぐ場合もあるからです.

短時間,意識を失う疾患としては,てんかんの他にも,いわゆる立ちくらみに似た失神発作や,精神的な理由によるヒステリー発作,不整脈などの心臓病,一過性の脳梗塞などがあります.

また,誰の目にもあきらかな全身痙攣だとしても,必ずしもてんかんが原因だとは限りません.てんかん以外の理由で痙攣をおこす病気はたくさんありますが,代表的なものとしては,アルコールなどの薬物の禁断症状,糖尿病による高血糖や低血糖,血液の電解質(塩分)のバランスの異常,などなど.こうした全身の病気の場合,原因を早くみつけて治療しないと命にかかわる場合もあります.

もちろん,脳の疾患の二次的な影響で痙攣が出現する場合があります.脳出血や脳腫瘍,時には脳梗塞でも痙攣は出現します.髄膜炎や脳炎といった細菌やウィルスによる病気も効率に痙攣発作を引き起こします.

てんかん以外の病気を否定するためには,本人や家族からの病歴の聴取に加えて,糖や電解質(Na, K, Cl, Ca)の血液検査,頭部CT(またはMRI)が必要です.髄膜刺激症状がある場合には,髄液検査も必要です.脳波は緊急でなくても大丈夫ですが,後日,必ずと検査するように手配すること.

さて,てんかん以外の病気が否定された場合,どうしましょうか.これは,てんかん診断の基本に従うわけですが,病歴の聴取が第一です.全身痙攣以外の,小さな発作を繰り返していないかどうか,うまく聞き出すことがコツですね.第二に脳波です.脳波が正常でも,てんかんを否定はできませんが,脳波に明らかな異常波を認める場合には,てんかんの可能性が高くなります.

治療はどうしましょうか.

過去に小さい発作を繰り返している,あるいは脳波で明らかな異常波がある,といった理由で,てんかんの詳しい病型まで診断可能な場合には,治療のメリット・デメリット,治療しないことのメリット・デメリットをきちんと説明して.初回発作であっても治療を開始してよいでしょう.

過去に発作がまったくなかった場合で,脳波異常もない場合,判断に悩むところです.一般的には,治療しないで経過を観察する,というのが世界のてんかん医療の標準とされています.このような患者さんが2年以内に発作を再発する可能性は,40-50%と報告されています.つまり,明らかに痙攣発作があったとしても,検査で異常がみつからなければ,半分以上の患者さんにとっては発作は一回きり,というわけです.

ただし,どうしても車の運転を早く再開したい,というような社会的な理由がある場合には,抗てんかん薬を開始する場合もあります.この際,薬を服用すればすぐに運転して構わない,というわけではないことを注意すべきです.最初に処方した抗てんかん薬が,必ずしも次の発作を予防するとは限らないからです.また現在の日本の法律では,てんかんと診断された場合には,発作が2年以上消失しない限り,運転は再開できません.

薬を飲まずに様子をみる場合には,発作が再発した時の事故などの可能性についても,話しておく必要がありますね.

【出典】

Beghi E: General conclusions and recommendations. Epilepsia 49 s1: 58-61, 2007(新しいウィンドウで表示)

トピラマートは強力だが副作用に注意(2008.02.03 中里信和)

【原文】

Topiramate is a highly efficacious new, broad-spectrum anti-epileptic drug, but significant adverse drug effects hinder its clinical use. ... ‘Start low and go slow’ is particularly important in topiramate treatment. --- C. P. Panayiotopoulos, 2007

【意味】

画像:topiramate

トピラマート(商品名トピナ)は適用範囲が広く有効性の高い抗てんかん薬であるが,副作用の発現もあるため,使用の際には注意が必要.「開始はきわめて少量から,増量はきわめて緩徐に」が,特に大切.

【説明】

トピラマートは,日本では2007年に発売になったばかりの最新の薬剤で,局在関連てんかんの補助薬として承認されています.  トピラマートは,局在関連てんかんの薬としては史上最強とも呼ばれているため,海外では補助役としてだけでなく,初期治療に単剤で用いられてもいます.また,局在関連てんかんだけでなく,全般性てんかんにも有効性が示されています.本態性(原因がハッキリしないもの)でも症候性(原因がハッキリしているもの)にも有効とのことであり,適応するてんかんの種類から言えば,まさに万能薬ともいえるでしょう.  通常は安全に用いることができるので,必要以上に不安に思う必要はないと思いますが,いくつかの副作用が報告されているので,処方する医師は十分に熟知しておく必要があります.

他の抗てんかん薬と同様に認められるトピラマートの副作用としては,眠気,食欲低下,倦怠感,不安感などがあります.

他の抗てんかん薬には珍しいトピラマートの副作用としては,思考の異常(言葉が出てこない,考えがまとまりにくい,など),集中力や注意力の低下,記憶障害など.子供では異常行動も報告されています.

体重減少も1割に認められるとされています.他に体重減少を来す抗てんかん薬としてはゾニサミド(商品名エクセグラン)が有名ですね.

珍しいけれども重篤な副作用としては,知覚異常,腹痛,代謝性アシドーシス,熱中症に似た症状,腎結石なども有名です.処方する医師は特に熟知しておく必要があります.

トピラマートを服用するときには,十分に水分を摂取するように.熱中症に似た症状や,腎結石に対処するためです.

成人の場合は一日量 25 mgから開始し,1-2週間ごとに25 mg ずつゆっくり増量すること,という投与法が推奨されており,一般の薬とは違いますね.

他の薬との相互作用も知られています.トピラマートと同じく,炭酸脱水素酵素を阻害するゾニサミド(商品名エクセグラン)とは,併用しない方が望ましいようです.

結局のところ,トピラマートは抗てんかん薬としての有効性が高いものの,てんかん専門医以外が処方するのは難しいと思います.通常は他の抗てんかん薬を試し,どうしても発作が抑制されない患者さんには,慎重にトライしてみる,というのが良い方針だと思います.

【出典】

C.P. Panayiotopoulos: A Clinical Guide to Epileptic Syndromes and their Treatment (2nd Edition), Springer, 2007(新しいウィンドウで表示)

ガバペンチンは局在関連に効き,安全(2008.2.3 中里信和)

【原文】

Recommendations for gabapentin as an anti-epileptic drug (AED) are limited to focal seizures. It is the least effective of all the other newer AEDs, ... However, it is considered relatively safe with few adverse drug reactions. --- C. P. Panayiotopoulos, 2007

【意味】

トピラマート(商品名トピナ)は適用範囲が広く有効性の高い抗てんかん薬であるが,副作用の発現もあるため,使用の際には注意が必要.「開始はきわめて少量から,増量はきわめて緩徐に」が,特に大切.

画像:gabapen

【説明】

ガバペンチンは,2006年にようやく日本でも発売開始となりました.米国在住の知人の医師から,使いやすい薬だよ,と教えられていたとおり,自分でも患者さんに処方してみて,本当にその通りだと思っています.

この薬は他の抗てんかん薬とは,まったく異なる特徴をもっています.

第一に,肝臓ではほとんど代謝されずに,腎臓から尿中に排泄されること,第二に,血液の中を流れる蛋白質とは結合しないことです.

この2つの特徴がなぜ重要かというと,ガバペンチンは,他のてんかん薬との相互作用(私は患者さんには,薬同士のケンカと説明しています)が,ほとんど気にしなくて済むためです.つまり,今まで飲んでいた薬とは別腹(べつばら)なのです.

使う上での注意点をいくつかあげます.

まず第一に,必ず局在関連てんかんに使用すること.全般性てんかんに使うと,効果がないばかりか,逆に発作を悪化させる可能性があります.

第二に,かならず少量から開始することと,ほとんど必ずといっていいほどですが,どんどん量を増やしていくこと.欧米では一日 300 mg から開始して3600 mgまで使用されています.日本では一日 600 mg から開始して2400 mgまで,となっています.  体の大きな外国人よりも日本人の方が,最大投与量が少ないのは理屈にあっていますが,初期投与量が日本では多く設定されているのは不思議ですね.私の経験では一日 600 mg からでも安全だと思いますが,たぶん服用しはじめの初期の頃には,眠気を強く訴えるからだと思います.でも大丈夫.最初眠くても,だんだんに眠気はきにならなくなる患者さんがほとんどです.不思議なことに,量を増やしても,眠気が増えるというわけではありません.

抗てんかん薬としては効果が小さい,と記載はされていますが,安全性が高いというのは本当に助かります.私は患者さんには,眠くなるけど最初はガマンしてください,どんどん増やしてから,効果があるかどうか判定しましょう,と話しています.

この薬は単独で使われることはまずなく,何か他の薬を飲んでいてダメなとき,ブースター的に追加で使うことがほとんどです.実際に,ガバペンチンを追加して,発作が完全に消失した患者さんを多数経験しています.コツは,少量の投与で効かないとあきらめずに,どんどん増量することだと私は思っています.

尿中にすぐ排泄されるので,一日3回の分服はガマンしてください.

【出典】

C.P. Panayiotopoulos: A Clinical Guide to Epileptic Syndromes and their Treatment (2nd Edition), Springer, 2007(新しいウィンドウで表示)