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追憶の旅に誘う側頭葉てんかんの発作(2010.09.27 岩崎真樹)

画像:oliver sacks

【原文】

This confirmed that she was indeed having temporal-lobe seizures, which, as Hughlings Jackson guessed and Wilder Penfield proved, are the invariable basis of “reminiscence” and experiential hallucinations.

【意味】

彼女が側頭葉てんかんの発作を持っていることは,これ(脳波)のおかげでしっかり確認できた.Huhgling Jackson が推測し,Wilder Penfield が証明したことだが,側頭葉てんかんでは「回想」あるいは「体験したことの幻覚」が,発作の変わらぬ基盤なのだ.

【説明】

「レナードの朝」の原作で有名なオリバーサックスの短編から取り上げました.この回想(Reminiscence)と題された短編には,側頭葉てんかんの患者さんが,すでに忘れていたはずの幼い頃の音楽の記憶を体験する事実が描かれています.

側頭葉てんかんではしばしば記憶や体験に関わる発作(前兆)が出現します.前兆はたいてい患者さんにとって不快な感覚をもたらし,その内容も漠然としたものが多いのですが,ときには非常に鮮烈な体験をもたらすこともあるようです.それはただの幻聴ではなく,過去に経験し既に忘れていた(意識下にあった)幼少時の記憶を,まさに「現実に」体験するのに等しいそうです.この患者さんの場合には,「生まれ故郷のアイルランドの地で母親の腕に抱かれて歌うのを聴く」といったぐあいです.

こうした側頭葉てんかんによって生じる体験は,Hughling Jackson(近代神経学の父)によって「夢の中の状態(dreamy state)」とか,「二重の意識(doubling consciouness)」,あるいは「心の複視(mental diplopia)」などと表現されていました.この60年後の1950年代になって, Wilder Penfield は側頭葉を電気刺激して同様の症状が再現できることを証明したのです.

【出典】

Oliver Sacks. “Reminiscence”. The Man Who Mistook His Wife For a Hat and Other Clinical Tales. Touchstone Book, 1998(新しいウィンドウで表示)

発作の「卵」は誰のどこにでもある?(2010.09.21 岩崎真樹)

【原文】

Rare microseizures observed in control patients suggest that this phenomenon is ubiquitous, but their density distinguishes normal from epileptic brain.

【意味】

健常なひとでも「微視的な」発作が稀に観察された.これは微視的なてんかん発作自体は普遍的な現象であり,正常脳とてんかん脳の違いは微視的てんかん発作の「密度」であることを示唆する.

【説明】

これは表面積が一千分の一平方ミリ程度しかない「微小電極」と,表面積10平方ミリ程度の通常の電極を組み合わせて,脳の表面から脳波を記録した研究です.てんかんの患者さんと,てんかん以外の目的で電極を挿入した患者さんで比較をしています.

通常の電極では観察されない,小さな短時間の発作現象が「微小電極」に観察されました.この微小電極でしか見られない「発作の卵」というべき現象には,当然ながらてんかん発作の症状は伴いません.この「発作の卵」はてんかん焦点の周りに多いものの,焦点の外側にも広く分布し,さらに興味深いことに,てんかんを持たない患者さんにも観察されています.そして,私たちが普段目撃するてんかん発作は,この「発作の卵」から始まり周辺の脳に広がることで生じるのです.

細胞数十~数百個単位の小さなてんかん発作は誰にでもあるのかもしれません.でもそれだけでは「てんかん」にはならないのでしょう.「発作の卵」が卵で終わらずに,それらが集まって大きな発作を生み出す「仕組み」がてんかんには必要なのだとこの論文は述べています.

【出典】

Stead M, et al. Microseizures and the spatiotemporal scales of human partial epilepsy. Brain 133: 2789-2797, 2010(新しいウィンドウで表示)

ペンフィールド先生の,進路での悩み(2010.09.18 中里信和)

画像:No man alone

【原文】

Should I consider medicine? No. I would be a failure, I was sure. Too bad! I liked the woods and football. But I aslo liked English poetry and, of course, physics, and then there was biology. My mind kept going in a circle.

【意味】

医学を志すべきか? いや,きっと失敗するに違いない.ひど過ぎる! 自分が好きなのは森やフットボール.英詩も,物理学も,生物学も・・・ 心は堂々めぐりだった.

【説明】

ワイルダー・ペンフィールド(1891-1976).てんかんを志す医師なら誰もが知っている名前.近代てんかん外科を立ち上げた巨人.麻酔を行わずに覚醒状態で脳を電気的に刺激し,大脳の機能マッピングを行ったことでも有名.彼がプリンストンの学生だった頃,将来の進路を悩んでいた時の図書館での回想の様子です.ちょうど今から100年程前の話です.結局ペンフィールドは医学を志すわけですが,その後の彼の活躍には物理学も生物学もきわめて重要な役割を果たしたことを私たちは知っています.フットボールも役立ったはずですし,きっと英詩も.この一節は,彼の自叙伝「No Man Alone(何事も,ひとりではできない)」からです.

どうしてワイルダー・ペンフィールドの言葉を引合いに出したかというと,これから医師を目指す学生さんに,専門教育に入る前になるべく医学以外の勉強や課外活動を思いっきりやっておいて欲しいと願ったからです.先週,私は東北大学医学部1年生全員に講義を行いました.新入生への医療入門ワークショップの一貫で「臨床医学紹介~臨床教授のお話を聞こう」というシリーズです.臨床講義棟は私が学生だった30年前とかわらぬまま.自分が学生時代に座っていたあたりの椅子も懐かしい.医学部に上がれば嫌でも詰め込み教育生活に入ります.卒業しても覚えなければならないことや,習わなければならないことがたくさんあるからです.大学入学までには,きっと受験勉強を一生懸命やってきたに違いありませんから,専門教育に移るまでの約2年が,彼らにとっては視野を広げ体力をつけ人間関係を深める大きなチャンスなのです.講義の最後は「医学以外のことをいっぱいやって,でも落第はしないで,早く楽しい学部に上がっておいで!」と結びました.4年後に医学部キャンパスで会えることを楽しみにしています.

新入生への講義の翌日には,仙台市内のホテルで,「東北大学医学部漕艇(ボート)部創立50周年記念パーティー」も開催されました.久々に同級生が集まってテーブルを囲み,昔話に花を咲かせたという次第.私がボート部に入った時に,母は「なにもボートなんかやらなくても・・・ 」と心配したのを思い出します.部活ばかりに夢中になって落第するとか,水の事故にでもあうとか,そういうことでしょう.「いろいろ教えてもらったけど,ひとつだけ間違ってたよ」 意識のない母の耳元に,私はさっき声をかけました.

【出典】

Wilder Penfield: No man alone: A Neurosurgeons' Life. Little, Brown and Company. 1977(新しいウィンドウで表示), p18.

キャシディからエリザベス女王に花束(2010.09.17 中里信和)

画像:queen

【原文】

Hi, my name is Cassidy Megan. I’m nine years old and I have epilepsy. I started Purple Day because I wanted to tell everyone about epilepsy, especially that all seizures are not the same and that people with epilepsy are ordinary people just like everyone else. I also wanted kids with epilepsy to know that they are not alone.

【意味】

キャシディ・メイガン,9歳,てんかんです.パープル・デイ活動を始めた理由は,みんなに「てんかん」を知ってもらいたかったから.とくに知って欲しいのは,発作は一人一人で種類が違うこと.それから,てんかんを持つ人も,持たない人と同じ普通の人間だということ.それから,てんかんの子供たちに,ひとりじゃないよと教えたいのです.

【説明】

キャシディ・メイガンが始めたパープル・デイ(Purple Day)活動のホームページには,エリザベス女王がカナダのノバスコシアを訪問した時に,キャシディが女王を花束で迎える写真が掲載されています.

この活動を2008年に始めたきっかけは,彼女自身が「てんかん」で悩んだことにあります.てんかんに対する偏見を取り除き,多くの人に病気について知ってもらい,また自分がてんかんだという患者さんに,仲間がいることを伝えたかったから,と書かれています.キャシディのアイディアを,ノバスコシアのてんかん協会が取り上げて,キャンペーンを開始したのです.

活動の歴史はまだ浅いのですが,2009年のアメリカてんかん学会では出席者の全員に紫色のバッジを配り,てんかんの患者さんがいたら隠さずに公表して活動に加わりませんか,とアピールしていました.偏見に満ちた世界で生きていくためには,自分の病気を隠すことが普通なのですが,パープル・デイ活動では,隠すだけでは事態はいっこうに改善されず,差別や偏見が残ったまま何千年もの歴史が繰り返されるだけだと訴えているようです.患者さん自身が勇気をもって訴えているのなら,医師や医療関係者や社会の指導層たちは,てんかんに対する誤解や偏見を解くために,もっと強く大きくキャンペーンを繰り広げるべきだと考えさせられます.

【出典】

http://www.purpleday.org/index.php(新しいウィンドウで表示)

purpleday

どんな専門家でも,知らない事がある(2010.09.16 中里信和)

画像:Socrates

【原文】

It is not shameful not to know the answer, nor is it embarrassing to ask other colleagues. No-one, even the most expert, knows everything.

【意味】

正解を知らないのは恥ずかしいことではない.同僚に質問することも,きまりの悪いことではない.誰一人,たとえ最高といわれる専門家でも,すべてを知っているわけではない.

【説明】

Panyiotopoulos の教科書には,どのページにも,教訓的な言葉に満ちあふれています.「若き医師たちへの言葉」と題するコラムの中で,Panyiotopoulos先生が,「てんかん発作と紛らわしい症状」について勉強するための教科書リストを挙げています.この言葉は,その最後の方にかかれたメッセージです.私も小さい頃,母から何度も呪文のように言い聞かされました.「聞くは一時の恥,聞かぬは末代の恥」だと.

自分に知識がないことを,決して開き直るわけではありませんが,医師たるもの,常に自分は未熟だと思い続ける必要があります.Panyiotopoulos先生がこの言葉を,自分の教科書の中でもとくに「てんかん発作と紛らわしい症状」を説明する章の最初のページに掲載した理由は,ご自身も含め,世の中の多くの医師が,てんかんではない発作をてんかんと間違えていることに,きっと気にされているためだと思います.

冒頭の写真は,ソクラテスの像.言わずとしれた「無知の知」の思想で有名です,「自分は何も知らない」ことの自覚が,他の無自覚な人々に比べれば優れている,とする考えですが,Panyiotopoulos先生の言葉の方が,より具体的でしょうか.

【出典】

C.P. Panayiotopoulos: A Clinical Guide to Epileptic Syndromes and their Treatment (2nd Edition), Springer, 2007(新しいウィンドウで表示), pp 79.

心因性非てんかん性発作にも分類あり(2010.09.15 中里信和)

【原文】

PNES can be classified into six stereotypic categories. Contrary to common belief, PNES demonstrates steteotypy both within and across patients.

【意味】

心因性非てんかん性発作は6種類に分類できる.これまでの通説とは逆に,心因性非てんかん性発作は患者さんごとに決まっていて,異なる患者さん同士でも共通する要素が強いようだ.

【説明】

「きのうのてんかん」に引き続いて「きょうのてんかん」も,心因性非てんかん性発作(PNES)を取り上げます.この研究ではビデオ脳波モニタリングによって,61例の患者さんから計330回のPNESを観察しました.脳波所見には「てんかん性異常」は認めませんので,発作の分類は症状によります.それぞれのタイプと頻度は以下のとおり.

(1)律動性運動発作(rhythmic motor PNES):リズミカルな,ふるえや筋硬直様の運動(46.7%)

(2)過運動発作(hypermotor PNES):暴力的な動き(3.3%)

(3)複雑運動発作(complex motor PNES):屈曲・伸展・外転・内転・回転などの複雑な運動.間代発作様,もしくはミオクロニー様の要素を,持つ場合と持たない場合がある.各要素が複雑に組み合わされ,また出現する身体部位別にも複雑な組み合わせとなる(10%)

(4)無意識発作(dialeptic PNES):無反応かつ動作停止(11.2%)

(5)非てんかん性前兆(nonepileptic aura):客観的な症状は認められず,主観的な(本人の訴えでしか確認できない)感覚のみで,患者は「発作ボタン」を押して知らせる(23.6%)

(6)混合型(mixed PNES):上記5種類の組み合わせ(5.2%)

この研究では,1人の患者さんに着目すると,上記6種類のうち1種類だけを示していた症例が全体の82%を占めた,とのことです.

一般的に,インテリの患者さんは,ホンモノの発作と見分けにくいPNESを示すと言われています.てんかん発作に詳しい専門医や医療従事者がPNESをおこす場合には,いったいどうなることやら・・・

発作はてんかんソックリでも,てんかん脳波をマネすることはできませんから,ビデオ脳波モニタリングは鑑別診断に威力を発揮することは言うまでもありません.

【出典】

Senevirante U, et al.: Stereotypy of psychogenic nonepileptic seizures: Insights from video-EEG monitoring. Epilepsia 51: 1159-1168, 2010(新しいウィンドウで表示)

心因性非てんかん性発作にも重積あり(2010.09.14 神 一敬)

【原文】

The NES Task Force subcommittee on “pseudostatus” recommends that the duration of psychogenic nonepileptic seizure (PNES) is tracked and those events lasting 20 minutes or longer, with or without changes in level of consciousness, are considered nonepileptic psychogenic status (NEPS).

【意味】

アメリカてんかん学会の「非てんかん性発作調査特別委員会」に設置されている「”偽てんかん重積”に関する小委員会」は,心因性非てんかん性発作の持続時間を調査することと,20分以上続く発作は意識レベルの変動を伴うか否かに関わらず非てんかん性心因性重積とみなすことを推奨している.

【説明】

心因性非てんかん性発作(PNES)を文字通り説明すると,「こころに原因」があって,「てんかんではない発作」を繰り返すことですが,その発作の内容はしばしば専門家でも本当の「てんかん発作」と間違うことがしばしばあります.「ヒステリー発作」と呼ばれ,軽蔑の対象となったような時代もあります.心因性非てんかん性発作は,意識的に発作を装う「詐病」とは違います.患者さんは,本当に発作に悩んでいるのです.

さて,PNESはてんかんと鑑別を要する疾患の中で非常に頻度の高い重要な疾患であるにも関わらず,身体科(神経内科,脳神経外科,小児科など)の側からは診断が確定すると“詐病”にも似た取扱いをされる場合があり,一方精神科からは身体疾患であるてんかんとの鑑別に専門的知識を必要とするため敬遠されがちです.このため,積極的な治療の担い手となる医師・科が見つからず,診断が確定した後も治療に難渋することが少なくありません.

てんかん重積とはてんかん発作が長時間続く危険な状態ですが,この論文では非てんかん性発作の場合でも長時間発作が続く場合には“重積”として区別することを提唱し,今後の管理・治療に結びつけようと呼びかけています.NEPSの患者さんはてんかんの診断のもと抗てんかん薬を投与されてしまうだけでなく,時に“てんかん重積”と誤診され,治療抵抗性の発作に対して静脈麻酔薬を用いられ,気管内挿管・人工呼吸器管理とされてしまうという事態に陥る場合さえあるのです.確定診断にはビデオ脳波モニタリングが必須で,治療にはてんかん関連各科と精神科が連携して当たる必要があります.てんかんではありませんが,てんかんを専門に扱う我々にとって避けては通ることのできない重要な疾患です.

【出典】

Dworetzky BA, et al.: Nonepileptic psychogenic status: Markedly prolonged psychogenic nonepileptic seizures. Epilepsy Behav [Epub ahead of print], 2010(新しいウィンドウで表示)

【参考】

兼本浩祐ら:心因性非てんかん性発作(いわゆる偽発作)に関する診断・治療ガイドライン.てんかん研究(新しいウィンドウで表示) 26:478-482, 2009

バイアグラと抗てんかん薬の併用注意(2010.09.13 中里信和)

【原文】

Treatment of patients on CBZ or VPA with sildenafil my not be recommended due to pharmacokinetic interactions. Coadministration of sildenafil with other AEDs, especially with TPM, seems to be a reasonable choice.

【意味】

カルバマゼピンやバルプロ酸をシルデナフィル(商標名バイアグラ)と併用するのは,薬の相互作用の観点からは推奨しにくい.他の抗てんかん薬,特にトピラマートとの併用は,理にかなっているようだ.

【説明】

この研究論文は動物実験(マウス)レベルのため,臨床的なエビデンス(実際の患者さんで比較試験を行って証拠がハッキリしたもの)はまだ得られていません.この記事の解釈には十分ご注意下さい.

男性のてんかん患者さんがEDに悩んでいる場合,安全かつ有効な治療を考える必要があります.一般的にEDに広く用いられているシルデナフィル(商標名バイアグラ)は,電気ショックでけいれん発作を引き起こす動物実験において,発作を起こしにくくする作用があることが知られています.この論文の動物実験では,カルバマゼピン,バルプロ酸,トピラマートが電気ショックを抑制する効果を,シルデナフィルが増強することも示しました.なお,フェノバール,フェニトイン,ラモトリギン,オキシカルバゼピンなどの他の抗てんかん薬に対しては,シルデナフィルの併用効果はなかったとのことです.

ここで注意しなければならないのは,カルバマゼピン,バルプロ酸,トピラマートのけいれん抑制効果を,シルデナフィルが増強するメカニズムです.カルバマゼピン,バルプロ酸は,血液中のたんぱく質に結合する率が高いことが知られていますが,シルデナフィルはカルバマゼピン,バルプロ酸のたんぱく結合と拮抗し,脳に作用するフリーのカルバマゼピン,バルプロ酸を増やすらしいのです.つまり,薬の相互作用です.一方,カルバマゼピン,バルプロ酸以外では,こうした相互作用は認められなかった,との報告です.薬の相互作用は実際には大変に複雑です.シルデナフィルを併用した直後は抗てんかん薬の効果が増強しても,中止したあとで反動で効果が低下してしまい,かえって発作が増えることもあるかもしれません.なるべく相互作用の少ない薬の組み合わせが安全ですから,カルバマゼピンやバルプロ酸とシルデナフィルとは併用しない方が良いのではないか,というのがこの研究のメッセージでした.

もう一度繰り返しますが,この研究はあくまでも動物実験です.実際の患者さんの治療においては主治医の先生によくご相談下さい.とはいえ,抗てんかん薬の治療においては,他の薬剤との相互作用は常に注意する必要がありますから,自分が服用している薬については隠さずに,かならず主治医にすべて教えておくことが大切です.

【出典】

Nieoczym D, et al.: Effect of sildenafil on the anticonvulsant action of classical and second-generation antiepileptic drugs in maximal electroshock-induced seizures in mice. Epilepsia 51: 1552-1559, 2010(新しいウィンドウで表示)

国際キャンペーン:暗やみからの脱出(2010.09.10 中里信和)

画像:outoftheshadows

【原文】

Global Campaign against Epilepsy: Out of the Shadows

【意味】

てんかんとたたかう国際キャンペーン:暗やみからの脱出

【説明】

国際てんかん連盟(ILAE: おもに医療従事者のグループ),国際てんかん協会(IBE:おもに患者・家族のグループ),国際保健機関(WHO:国際連合の専門機関)の3組織が協力して,1997年に開始されたキャンペーンのテーマ.

国際てんかん連盟(ILAE: おもに医療従事者のグループ),国際てんかん協会(IBE:おもに患者・家族のグループ),国際保健機関(WHO:国際連合の専門機関)の3組織が協力して,1997年に開始されたキャンペーンのテーマ.ロゴは,月の影に完全に隠れた皆既日食の状態から,太陽がまさに姿を現そうとしているダイアモンドリングの瞬間を表していると思われます.

てんかんは,日本だけでなく,世界中のどの国々でも「日陰者扱い」なのです.これだけ医学や医療が進歩しているのに,疾患に対する教育不足や無知,あなどり,偏見,べっ視などが強すぎて,「普通の生活をすごせるはずの患者さん(太陽)」が「普通とはまったく違う状態で悩み続けている(月の影の中)」のです.キャンペーンのテーマはまさに,この影の中から,患者さんや家族を救い出して,本来の状態に戻して上げたい,とうメッセージです.

医学研究における国家予算をみても,患者さんの数がきわめて少ない病気に対して何億円もの研究費が投じれられているにもかかわらず,てんかんに対する研究費はわずかです.ありふれた病気として,軽視されているとしかいいようがありませんね.てんかんを,どげんかせんと,いかんとです!

【出典】

キャンペーンの公式サイト:Global Campaign against Epilepsy: Out of the Shadows(新しいウィンドウで表示)

WHO(国際保健連盟)のホームページ:Global Campaign against Epilepsy: Out of the Shadows(新しいウィンドウで表示)

キャンペーンのパンフレット(英文):The campaign at a glance [pdf 252kb]

てんかんは,「静かなる危険」の継続(2010.09.09 神 一敬)

画像:newsweek

【原文】

Most people with epilepsy are not in a constant state of seizure. They are, rather, in perpetual but quiet danger.

【意味】

ほとんどのてんかん患者は,常に発作を起こしている状態にある訳ではない.むしろ静かなる危険な状態が続いているのである.

【説明】

2009年4月にアメリカの週刊誌“NEWSWEEK”が,てんかんに関する特集を組んだ際の記事からの抜粋です.

この記事で,世界の医療をリードするアメリカにおいてもてんかんが軽視されており,患者一人当たりに換算した研究費の額も,他の比較的稀な神経疾患(多発性硬化症やアルツハイマー病など)と比べ,不当に少ない点が指摘されています.もちろん日本も同様です.そして,“がん”に対する国家を挙げての対策と同様に,“てんかん”に苦しむ人々にも目を向けるべきであると結んでいます.

てんかんが軽視されている理由の一つとして,薬物治療の進歩に伴い,一般の方々に「てんかんは基本的にコントロールできる状態にある」という印象が植えつけられた点が挙げられています.皮肉なことに大抵の患者さんは常に発作を起こしている訳ではないので,実際の状態よりも深刻な問題として受け止めてもらえない現実があるのです.著者はいつ起こすか分からない発作と常に隣り合わせに生活しているてんかん患者さんの状態を“静かなる危険(quiet danger)”と表現しています.

“てんかん”がどのような病気で,この病気に苦しむ患者さんがいかに多いかを世間に理解してもらうことが第一歩です.

【出典】

Meacham J: A call to action on epilepsy. Newsweek(新しいウィンドウで表示) April 20, 2009