十分な抗てんかん薬治療によっても発作がコントロールされない場合に、外科治療の適応を検討します。
外科治療が相応しいかどうかは、ビデオ脳波モニタリングを含む精査を行なって判断します。
外来診療や一般的な検査だけでは適応の判断が難しい場合があります。
上に挙げた以外にも手術の適応となる患者さんは多くいますが、適応は精査の結果から個別に判断されます。
発作頻度の減少や発作症状の軽減を目指す脳梁離断術や迷走神経刺激術といった治療もあります。
図:てんかん治療のフローチャート
(参考文献)
岩崎真樹,中里信和.てんかんの外科治療.
Modern Physician vol. 32 (3) 特集:知っておきたいてんかん診療 新興医学出版社 2012, pp.329-332
岩崎真樹,中里信和.てんかんの外科治療.
兼子直 編:てんかん教室(改訂第3版). 新興医学出版社 2012, pp.185-196
大学病院として特徴と先進性を活かし、脳神経外科・てんかん科・小児科・高次脳機能障害科・放射線診断科が協力し、乳幼児から成人まであらゆる年齢層に対する全てのてんかん外科治療を提供しています。
図:東北大学では複数の科が連携して包括的なてんかん診療を提供しています。
2015 | 2014 | 2013 | 2012 | 2011 | 2010 | 2009 | 2008 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
経シルビウス裂的選択的扁桃体海馬切除術 | - | 1例 | 4例 | 3例 | 2例 | 3例 | 5例 | - |
側頭葉前半部および海馬扁桃体切除術 | 11例 | 10例 | 9例 | 6例 | 2例 | 1例 | 4例 | 6例 |
前頭葉切除術 | - | 1例 | 1例 | - | 1例 | 1例 | 2例 | - |
後頭葉切除術 | 1例 | 2例 | 1例 | - | 1例 | 1例 | - | 3例 |
病巣切除術 | 5例 | 4例 | 1例 | 2例 | 1例 | 4例 | 5例 | 1例 |
皮質切除術 | 3例 | 5例 | 1例 | - | 2例 | - | - | 7例※ |
脳梁離断術 | 11例 | 4例 | 5例 | 6例 | 5例 | 7例 | 4例 | 2例 |
半球離断術 | - | 2例 | 1例 | 2例 | 2例 | 1例 | 1例 | 4例 |
頭蓋内電極留置術 | 8例 | 11例 | 8例 | 6例 | 4例 | 3例 | 6例 | 7例 |
迷走神経刺激装置植え込み術 | 5例 | 4例 | 6例 | 6例 | 3例 | 1例 | - | - |
軟膜下多切術 | - | - | - | - | - | - | 2例 | - |
海馬離断術 | 1例 | - | - | - | - | - | - | 1例 |
前頭葉および側頭葉切除 | - | - | - | - | - | - | - | 1例 |
前頭葉離断術 | - | - | - | - | - | - | - | 1例 |
※7例(前頭葉 5例、側頭葉 2例)
北海道 | 3名 |
---|---|
青森県 | 14名 |
岩手県 | 15名 |
秋田県 | 7名 |
山形県 | 11名 |
宮城県 | 53名 |
福島県 | 12名 |
埼玉県 | 1名 |
神奈川県 | 1名 |
長野県 | 1名 |
成人の難治てんかんとして最も多いものの一つです。
当院ではなるべく脳切除範囲を小さくする選択的扁桃体海馬切除術を行なっています。
図:シルビウス裂アプローチによる選択的海馬切除。
手術画像(上段)および術前後のMRI(下段)。海馬だけが切除されている(赤破線)のが分かります。
図:画像処理による海馬の体積測定(volumetry)を診断に役立てています。
(参考文献)
岩崎真樹,中里信和,隈部俊宏,冨永悌二.経シルビウス裂的選択的扁桃体海馬切除術.
脳神経外科速報 21(11): 1194-1201, 2011
岩崎真樹,冨永悌二: てんかん外科における海馬周辺の解剖と手術.
脳神経外科ジャーナル 21(8):610-617, 2012.
あらゆる年齢層において難治てんかんの原因として最も多いものの一つです。FDG-PETや脳磁図(MEG)などを組み合わせ、さらに必要に応じて深部電極を併用した頭蓋内脳波による精査を行っています。融合画像を活用して切除範囲を正確に評価しています。
図:この患者さんのMRIは正常でしたが、FDG-PET検査によって右側頭葉の異常が見つかりました(赤破線内)。
皮質形成異常がてんかんの原因であることが分かり、手術によって発作が消失しました。
図:複数の検査結果を3次元画像に投写して手術計画に役立てています。
片側巨脳症に代表されるような大脳半球の広汎な異常が、乳幼児の難治てんかんの原因になることがあります。このような例ではてんかんによって二次的な発達遅延(てんかん性脳症)を生じる場合があり、早期の外科治療が必要とされます。半球切除および離断術は、そのようなてんかんに高い治療効果があります。
東北大学では半球間裂からアプローチする半球離断術を行なっています。切除する脳の範囲をなるべく小さくし、体重の低い乳児においても可能な限り安全な手術を行なっています。
図:当院での半球離断術。半球間裂からアプローチすることで切除する脳を最小限にし、体重の少ない乳幼児でも出来る限り安全な手術を行なっています。
(参考文献)
Kawai K, Morino M, Iwasaki M. Modification of vertical hemispherotomy for
refractory epilepsy. Brain and development 2013 [in press]
脳梁離断術は、特に転倒発作(Drop attacks)を伴う全般に対して有効とされます。発作の完全なコントロールが得られる可能性は限られますが、発作回数の減少、転倒による外傷の回避が得られます。
東北大学では、既に精神発達の遅れがある小児に対しては"全"脳梁離断を行なっています。
過去の報告に比べて高い確立で発作消失が得られる例があることを報告しています。
図:当院における脳梁離断術。前頭部から脳梁を全長にわたって離断します(赤矢印)。
(参考文献)
Iwasaki M, Nakasato N, Kakisaka Y, Kanno A, Uematsu M, Haginoya K, Tominaga T. Lateralization of interictal spikes after corpus callosotomy. Clinical neurophysiology 122:2121-7, 2011
Iwasaki M, Uematsu M, Sato Y, Nakayama T, Haginoya K, Osawa S, Itabashi H, Jin K, Nakasato N, Tominaga T. Complete remission of seizures after corpus callosotomy. Journal of neurosurgery. Pediatrics 10:1-13, 2012
Iwasaki M, Uematsu M, Nakayama T, Hino-Fukuyo N, Sato Y, Kobayashi T, et al.: Parental satisfaction and seizure outcome after corpus callosotomy in patients with infantile or early childhood onset epilepsy. Seizure [Epub ahead of print] 2013
全般てんかん、てんかんの焦点が不明あるいは広範、脳機能野とてんかん焦点が重なっているなどの理由で切除による外科治療が行えない例が対象になります。切除術に比べると効果は限られますが、半数以上の例で発作の軽減が得られます。
約1時間程度の植え込み術で済み手術としての負担が少ないのが特徴です。
認定医による刺激の調整が必要ですが、遠方であっても出張てんかん外来にて対応できます。
迷走神経刺激療法について
http://www.nihonkohden.co.jp/ippan/vns/index.html(日本光電サイト)
当グループでの治療例の一部を紹介いたします
(プライバシー保護のため、年齢、経過などは実際と変えてあります)。
13歳頃から、「みぞおちのあたりからこみあげるような気持ち悪さ、胸をさすりながら口をクチャクチャ動かして反応が1分位なくなる」という発作があった。てんかんの診断で17歳から抗てんかん薬を処方された。
内服を怠った際に全身けいれんをおこしたのをきっかけに35歳のときに広南病院脳神経外科を受診した。
平均して週に2~3回の発作があった。
側頭葉てんかんと診断され3種類の抗てんかん薬を試みたが発作は消失せず、手術が検討された。
MRIで左海馬の委縮が認められた。入院検査で左側頭葉てんかんによる発作が確認された。
経シルビウス裂アプローチによる選択的扁桃体海馬切除術を行い、てんかん発作は消失している。
5歳頃から「苦しい」「目が見えない」、ボーっとするなどのエピソードが始まった。
MRIと脳波で右後頭葉の異常を認め抗てんかん薬による治療を開始した。一時発作の頻度は減ったが、複数の薬物を試みるも発作が再び増加した。8歳になってからはほぼ毎日、前方や後方に倒れて動かずに反応がなくなる発作や、両手両足を突っ張らせる発作が見られた。
発作時の脳波モニタリングの結果、右後頭葉の病変にはじまる脳波変化がみられた。
右後頭葉切除術を施行。
左犯側視野欠損が残ったが、発作は完全消失して学校生活に戻っている。
生後2か月のときに四肢を硬直させるけいれん発作で発症。MRIで左大脳半球に広範な皮質形成障害を疑う所見があった。様々な抗けいれん薬を併用するも発作のコントロールが困難で、当グループ紹介時にはベンゾジアゼピン薬剤の持続静脈注射を行いながらも呼吸抑制を伴うけいれん発作が一日に数十回生じている状態であった。
発作時の脳波では形成障害がある左半球の異常活動を確認した。
左大脳半球離断術を施行。右片麻痺が残ったが、てんかん発作は消失。1歳9か月になった時点で言葉の発達も見られている。
1歳のときに両腕ビクッとさせて眼を上転させる発作が始まった。
発達の遅れを伴い、脳波などの検査からウェスト症候群(点頭てんかん)の診断となり治療が開始された。
ACTH療法で一時発作が軽減するも再発し、複数の抗けいれん薬やケトン食療法などを試みるも発作はコントロールされなかった。発作は毎日複数回あり、発作によっては転倒による頭部外傷を伴った。
発作の軽減を目的に脳梁離断術を施行。
術後、発作による転倒、外傷は消失した。発作頻度も術前の20%程度に減少している。